設計コンペの審査員として携わりました、福島県の伊達市にある旧小手学校リノベーション工事における実施設計コンペの審査委員会と、公開審査会の様子が、福島県建築設計協同組合のホームページに公開されましたのでお知らせいたします。審査は公開の形式として公明正大に実施され、最終的に設計者が特定されました。その選定プロセスや講評が克明に公表されておりますので、下記のアドレスの内容をご覧ください。私自身も大変、勉強になりました。 今回の建築再生コンペの提案は、限られた予算の中で最大限に魅力を引き出した提案をおこなった案群と、提案を盛り込みその提案内容の優先度を確認する案群に大別されました。結果として、前者から設計者が選定されたことは、建築再生の予算のコントロールが難しい中、その把握・調整・理解度をより重視している本設計競技のコンセプトは保てたと言えると、浦部審査委員長は講評されています。私も同様の考えです。 また、本事業の建築再生に関するアドバイザーとして契約を締結し、今後も本事業に携わることになりましたので、合わせて、お知らせいたします。これまでのプロジェクトでは、一つの建物を、いかに魅力的に再生するための設計をおこなうことを考えてきましたが、建築再生をおこなうことによって、まちづくりや今後のまちの活性化にどれだけ寄与するかを主眼に、自らの知見を活かしつつも色々な方にご意見をお聞きしながら、本事業に関わっていくことができればと考えています。 審査委員会および公開審査会 伊達市「旧小手小学校リノベーション工事設計業務」 簡易公募型設計競技 審査会結果について 審査講評 伊達市「旧小手小学校リノベーション工事設計業務」簡易公募型設計競技 審査講評について
7月6日に武蔵野美術大学の前期の4年生向けの建築構法の講義が終了し、8月13日に東京工芸大学の建築生産Ⅱの前期の2年生講義が終了しました。それぞれ、13回の講義をおこないましたが、講義や課題の準備を含めて、実務と並行しての講義は、私にとって、とても刺激的なものでした。 武蔵野美術大学では、基礎的な主体構法と各部構法だけではなく、現代において用いられる構法・技術や建築生産および建築再生について、実務との関わりを実務者の目線でも講義しました。武蔵野美術大学では設計課題を中心に、意匠論や建築計画についての授業が多く、構法や材料、ディテールなどの建築の仕組みについて考える授業があまりないとのことで、提出されたレポートには建築を設計する上で、とても大切なことを学んだとの考察が多く書かれていました。 最終の期末課題は、自らが最も興味を惹く(あるいは、好きな)建築の再生事例と構法の解説と考察としました。約90名の学生さんが取り上げた60作品のうち、最も興味を惹くとして取り上げた建物の再生事例は、辰野金吾が原設計の東京駅丸の内駅舎2度の保存・復元再生についてでした。また、作品が最も取り上げられた再生設計者は、私の恩師である青木茂先生でした。その他、内田祥哉先生(大阪ガスNEXT21建設委員会)のNEXT21や、宮部浩幸先生の兜町平和第5ビル、田根剛さんの弘前レンガ倉庫美術館、安藤忠雄先生の国立国会図書館 国際子ども図書館なども複数の学生さんが取り上げていました。提出された全てのレポートは、改めて、私自身も勉強になりました。 講義に際し、近畿大学の池尻隆史先生には、多大なるご指導とご協力をいただきました。改めて、この場を借りて、感謝を申し上げます。 東京工芸大学では、全13回の授業で自らが携わった耐震改修をともなう建築再生の11事例を解説しました。建築の長寿命化や新築と再生の違い、設計手法や設計プロセスなど、建築再生学を講義しました。これまで、いろいろな大学で講義をさせていただきましたが、本講義のように、深度を深めて建築再生について講義をおこなったのは初めてでしたが、学生さんのレポートでは、建築再生が積極的な創造行為であることを認識し、また、興味をもったとのことでした。 自宅の再生、大学内の校舎の再生を設計者として、仮想のクライアントである両親や不動産業者、および、大学にむけての企画書を作成することを定期の課題として、学生さんと一緒にディスカッションしながら、身近な建築の再生についても考えました。これからの環境循環型社会や縮小社会に向けての時代に応じた、とても、意義深い講義であったのではないかと考えています。 講義は自宅や事務所からのオンライン授業や、大学での対面授業やハイブリッド授業など、社会状況に合わせての対応を迫られました。全講義が終了し、学生さんからの評価を武蔵野美術大学の学生さんから受けました。私たちの時代にはなかったと記憶していますが、昨今は、先生側が学生さんから評価を受ける時代です。概ね、良い評価と満足度でしたが、オンライン講義の通信環境を指摘され、これも、コロナがなければ受けなかった指摘ではないかと思いましたが、後期の講義からの改善の必要性を感じました。 それぞれの大学で、講義に関しての考察や感想を提出してもらいましたが、学生さんは、座学と演習の双方の大切さを感じていました。少しでも、学生さんの学びや今後の建築に向かう姿勢に対して、私の講義が活かされたのであれば幸いです。後期は、大学院の建築構法特論という講義で、建築再生を中心に、9月から武蔵野美術大学で講義をおこないます。気持ち新たに、真摯に取り組みたいと考えています。 お声がけいただきました、武蔵野美術大学の源愛日児先生、東京工芸大学の森田芳朗先生には、改めて、感謝を申し上げます。
8月5日、母校である福岡大学の高山峯夫先生にお声がけいただき、学部2年生の夏季集中講義の建築キャリアデザインという授業において、講義をさせていただきました。対面授業であることから、羽田空港にてPCR検査を受けて陰性の検査結果をもって機内に乗り込みました。2020年4月に発出された緊急事態宣言から、約1年半ぶりに帰福いたしました。 福岡大学への訪問は、2016年に実施された日本建築学会の大会での発表以来となります。大学校内を散策すると、約25年前に私が学部生のころ利用していた校舎が次々に建て替わっていました。建築学科が入っている5号館は耐震改修工事が行われ、建物は残っていましたが、1階の私の所属研究室があった場所は、ガラス張りの多目的教室に変わっていました。これは、福岡空港から2駅の博多駅に降り立った時にも強く感じました。西日本シティ銀行の本店ビルが跡形も無く解体されていました。私は、建て替わる前の校舎や西日本シティ銀行の本店ビルを思い出せませんでした。建築は存在し続けることで、記憶や歴史の継承につながると思っています。 建築キャリアデザインという講義は、発注側、施工、設計、海外などの各分野に進んだOBがこれまでのキャリアを話して、学生さんが進路を考える機会となるものです。夏季講座にも関わらず、50名以上の学生さんが受講されていました。私は建築の再生の設計について講義をさせていただきました。講義冒頭、私が28年前に大学に入学した頃の話をしました。入学初日のガイダンスにおいて、「バブルも弾けて、今から不況だから、建築業界は厳しくなるから。」と、高山先生に夢と希望を打ち砕かれたことを話しました。実際に、私が大学院を修了して社会に出る2000年は、日本が失われた20年と呼ばれる縮小社会に突入する終わりの始まりでした。 私の講義後、私の後輩にあたる、日建設計のウッドラボの代表を務める大庭拓也さんが講義をおこない、私も講義を楽しく拝聴しました。大庭さんの講義後、高山先生を交えて楽しい議論をさせていただき、コロナ後の東京での再会を話しました。 このような社会状況の中、私が建築再生の道に進み、今日まで、一筋にそれを続けられていることは、建築再生が現代社会に求められているということではないかという思いがあります。バブルの頃にはバブルの頃に、今の社会には今の社会に、建築は時代の要請に応じて求められるものだと思っています。今回の帰福の際、後に私の恩師となる、建築家青木茂の存在を学生時代に教えてくれた、同期の旧友である小山くんに、小山くんが所属する立派な職場のビル前で少しだけ会いました。あの時、青木茂先生の著書である「建物のリサイクル」を教えてもらわなかったら、今の私は別の道に進んでいたかもしれません。(小山くんに伝えてはいませんが、本当にありがとう。)切磋琢磨しながら、ガシガシ設計課題やコンペに取り組んでいた頃を懐かしく思い出しながら、ほんの少しの時間でしたが、近況を報告しあいました。もっともっと偉くなって、電気ビルの再生の仕事ください。 また、同期の旧友である村上くんにも会いました。福岡で長年、設計事務所を経営している村上くんの事務所に訪問して、近況を報告しあいました。広々とした模型室が本当に羨ましく思いました。天満宮の作品ができたら、必ず見に行きます。 実は、今回の講義に合わせて、再生の相談を受けている、博多にある築80年の伝統木造建造物の視察にもうかがいました。以前、私の尊敬する先輩が結婚式を挙げたところで、蘇らせる方策を相談者と練っているところです。このタイミングで、かつ、自らが利用したことのある建物の再生の依頼を受けることに縁を感じます。アフターコロナで求められる建築は何かということを考えながら、建物を拝見しました。 講義当日、建築学科の事務の方が、私の授業の様子を建築学科のツイッターにアップしたいと言って許可を取りにきたのですが、何と、建築学科の同期の池永さんでした。私の講義の様子が2021年8月5日のツイッターにアップされていますので、お手隙の際にでも、ご覧くださいませ。 昨日、高山先生から学生さんが書いた講義レポートのデータを拝受いたしました。講義を踏まえて感じたことや建築再生に関する分析や、自らの考えを交えて、これからの学業に活かす姿勢などを自らの言葉で丁寧に書いているものもありました。建築再生に対する気づきを感じる内容が多く含まれていましたので、私は一定の役割を果たすことができたのではないかと、勝手に感じております。今回の帰福は、多くの人の縁を感じた旅となりました。このような、貴重な機会を与えていただいた高山先生と福岡大学に感謝を申し上げます。 Tweets by fukuoka_u_TA