先日、東京大学で講義をさせていただきましたが、今年度、都内の国公立の大学、美大、不動産系学部の大学にて、建築再生に関する講義をさせていただくことになりました。お声がけいただいた先生方には感謝を申し上げます。各大学の特色と講座の特性を踏まえて、授業の準備を進めたいと思います。また、これらのお声がけをいただいた背景については、建築再生の需要の高まりとともに、これからの建築を取り巻く大学のあり方として、必然なのであろうとも感じております。学生のみなさんには、建築再生の魅力と苦労について、お伝えできればと考えています(建築再生は苦労も多いですが、それ以上の魅力を感じて欲しい!)。これからも、建築再生の設計に関する実務と合わせて、建築再生に関する研究や教育についても、真摯に取り組む所存です。これらのことについては、随時、ご報告させていただきたいと思います。
6月23日に私が東京大学で講義をさせていただいた、学部3年生向け授業である建築生産マネジメントの講義に対する、学生さんから提出された70名分のレポートのデータを、7月9日、東京大学の権藤先生から受領いたしました。レポートの提出者には、建築が専攻ではない分野の専攻者や学部3年生ではない院生も含まれており、東京大学は横断的教育を受けることの可能な環境の自由度の高い大学である印象を受けました。講義の際、ZOOMを使用して一方的に私が講義をおこない、最後にチャット機能で文字で質疑を受け回答する流れでしたので、学生さんにどの程度の講義内容が伝わっているかが感じ取りにくかったのですが、提出されたどのレポートも熱量が高く、事前に抱いていた不安は大きく裏切られることになりました。受領したレポートを真剣に拝読したのですが、全てのレポートを読むのに、3.5時間を要しました。 講義を通じて建築再生の実情を垣間見たと思われる学生さんの中には、私の日本建築学会で発表した今回の講義に関連する査読論文1)2)や、私の建築学の博士号を取得した際の博士論文3)、また、当社のホームページに記載している私の考える建築再生に関する記述4)を分析された方もいて、私の講義後に建築再生について向き合い、考察し、講義で得た知見を元に自らの分析をレポートに記しており、レポート作成に真摯に取り組んでいる印象を受けました。レポートを作成する上で得た講義以外の知見の記述には全て出典が記載されており、おおよそ、進路の振り分けにより3ヶ月前から建築学を学び始めた学生のレポートとは思えない文章構成力や比較考察力を感じとることができました。偉そうなことは言えませんが素晴らしい。ちなみに、私の今回の講義に関連する査読論文は一般公開されており、最下に記載のページで閲覧が可能ですので、お時間のある方は、ご笑覧ください。 私の講義では、住宅・非住宅・公共施設の建築再生の手法について、それぞれ構造・法規・文化財の保存と利活用に焦点を絞り、具体的な3事例を掘り下げて解説いたしました。特定の事例に着目し、その事例特有の手法を掘り下げて論理を展開する方や、レポートの記述が講義内容にとどまらずに私の博士論文を出典として博論中心の展開の方、今回の講義で解説した建物とほかの建物との比較考察をされている方、事前の予備調査の重要性に主眼を置く方、また、他の先生方の構法・構造・歴史の講義を踏まえた建築生産に対する考えの整理をされている方など、レポートの記述は実に興味深く、とても斜め読みすることはできない深みのある内容でした。 建築再生の大変さ・煩雑さ・地味さ・面白さ・魅力や、建築再生の専門性が高いために一般化しないことについての考察など、これらの熱いレポートを読み、私も多くの学びと気づきがありました。建築再生の有用性や一般化の必要生が伝わったと感じると同時に、他方、以前より建築再生の要請があったのではと捉える考えや、さらなる、ビックデータ情報等の整理の必要性や建築再生の特殊性など、今後の課題があることなど考えさせられる記述がありました。レポートの中に、私に対するポジティブなご意見も多くいただきましたが、私の方こそ学生の方々にお礼が言いたいくらいで、それぞれの方のレポートにアンサーしたいくらいでした。 当社の屋号である、奥村誠一建築再生設計事務所に再生の文字が入ることに衝撃を受け、その点に着目していた方がいましたが、建物の新築時よりも経年変化した姿に興味があるとのことで、その記述の内容はとても印象的なレポートであり、まさに、私の建築の再生を設計する思いを受け止めてくれていると感じました。新築を設計し造形的な新規性を社会に生み出すことが建築家の本領を発揮することであり、既存建物に手を入れることは本意ではない建築家がほとんどであると捉えていたが、建築再生を事務所名に掲げて本格的に通り組むことは画期的であり、構造・機能・法規などの観点から総合的なソリューションを生み出す積極的な創造行為であると感じると述べており、建築の新しい世界が広がる方向が示されているように思えるとのことだ。しかも、再生という行為で扱うのは文化財のような特殊性のある建物だけではなく、一見、平凡にも見えるビルもその対象になることが可能であり、建築再生が新築と同等の立ち位置を得る日も遠くはないと期待しているとのことでした。 レポートの読後、コロナ禍において、私は爽やかな清涼感に包まれた気がしました。これらの学生の方との意見交換の場などがあれば嬉しいと感じたのですが、なかなか、ZOOM講義では難しく、やはり、直接顔を見ながらの講義の方が私はいいと思ってしまいました。 先日、私が26年前に両親に渡した書類の画像が、独立時に実家の母親から送られてきたのでご覧いただきたく。恥ずかしながら、私がバブル崩壊後の高校生の時に両親に宣言した、独立を夢見て作成した独立後の未来の名刺です。この名刺の社名に建築再生の文字を加えた名刺を今は使用しており、名刺を改めて両親にも渡しましたが、学生のみなさんも現在の志をもって、社会に羽ばたいていただきたく、心よりそれを願っています。この度は、大変貴重な経験をさせていただき、誠にありがとうございました。 参考文献1)都市環境の形成に寄与する意匠 性を向上した外部からの耐震補 強技術の開発https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/20/44/20_241/_pdf/-char/ja 2)東日本大震災により半壊認定を受けた共同住宅のリファイニング設計手法https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/21/49/21_1189/_pdf/-char/ja 3)耐震改修をともなう建築再生における設計プロセスの体系化に関する研究https://tokyo-metro-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=4940&file_id=18&file_no=1 4)奥村誠一建築再生設計事務所HPhttps://kenchikusaisei.com/https://kenchikusaisei.com/home/solution/
2020年6月8日、建設経済新聞に当社の創業に関する記事が掲載されました。メディアの媒体を通じて、事務所の創業をみなさまにお知らせさせていただけることは大変ありがたく、同時に、気が引き締まる思いです。お世話になっております建設経済新聞の津金社長に心より感謝申し上げます。現在進行中の建築再生のプロジェクトについても、みなさまに発信できれば幸いです。今後とも、ご指導のほど、よろしくお願いいたします。