母校にて、建築再生に関する特別講義と設計課題の講評をさせていただきました。
学生時代の師匠である建築家の小川晋一先生にお声がけいただき、8月21日、母校である近畿大学において、建築再生に関する講義と3年生の集合住宅の設計課題の講評会に参加をさせていただきました。4年生や先生方を含めて100名以上の参加をいただいた、zoomを使用してのオンライン講義となりました。
講義前に久しぶりに近大の先生方とお話をさせていただき、なつかしい気持ちと、改めて、気を引き締めなければならないと感じながら、誇らしい気持ちで講義をさせていただきました。しかしながら、学生時代にご教授いただいた先生方の前での講義は気恥ずかしさもありました。私の後輩にあたる建築家の非常勤の先生方ともいろいろなお話をさせていただき、これまでの時の経過と、これからの未来について語り合うことができましたが、先日独立した身としては、みなさんが先輩となります。(これからよろしくお願いいたします!)
特別講義については、内容を詰め込みすぎていたことなど、学生のみなさんにはやや難解な部分もあったかと思いますが、少しでも建築再生に対する気づきになればと思いながら、私の思いを後輩に伝えるべく、本日、楽しく講義をさせていただきました。設計課題の講評会では、日頃の実務で向き合うコスト・構造・法律などの制約条件に縛られた、ギリギリの設計業務から少し視点を変えて、学生さんの自由な発想の提案を拝見し、多くの気づきのある時間を過ごさせていただき、建築は楽しいものだということを改めて再認識しました。学生の皆さんの提案は、計画的には詳細が煮詰まっていないことや、やや、一部、整理が不足しているような発表もありましたが、コストに囚われない自由な発想は大変刺激になりました。(1点だけ言いたいことがあるとすれば、、図面に階段は描こう。笑)
それともう1点、大高正人設計の広島を代表する高層アパートに隣接する敷地において、リバーサイドである配置だけではなく、周辺環境との関係やその土地のもつ歴史などを踏まえた計画であってほしいとも感じました。私の3年生の時の設計課題は、既存建物の解体を前提とした、事務所ビルを計画せよというプログラムでした。その当時は、その敷地に建つミニマルでユニバーサルなスペースを獲得するための経済性に富んだ提案をしたのですが、今思えば、元々ある建物をなぜ解体するのか、その理由は何か、理由があるとしてそこに建つべき建物は何がふさわしいのかなど、課題に対するアイロニカルな視点も取り入れて提案をしてもよかったと今は思っています。既存建物を解体することに何の抵抗もありませんでした。これは高度経済成長のなごりでもあったかと思います。
講義後の質疑において、いつから、建築の再生について意識し始めたか、という問いがありました。自らが学生の時は、いかに、魅力的なロジカルで意匠性の高いミニマル建築を提案できるかを考えていたのですが(学生にありがち)、設計の実務をおこなうようになって、青木茂先生に出会ってから考えが変わりました。斬新な建築を設計して欲しいと言う要望よりも、今保有している建物や土地をどのように活かすことができるかというクライアントの問いに対して、一つ一つ回答を積み上げ、建築再生のメリットを伝えていき、建て替えではない案を提示していきました。
私の故郷である北九州市は官営八幡製鉄所が1901年に創業し、鉄の町として早くから栄えたのですが、それが原因で、公害発生やバブル経済の崩壊で、これまた早くから街の衰退が起こりました。衰退した街の様子しか知らない私としては、地方都市である我が街をなんとかしたいという思いが、ずっと、心の中にありました。今では、北九州市は環境モデル都市として、日本に先駆けて環境問題に取り組む都市として、SDGs未来都市に選定されています。各位の頑張りが結実した結果だと思っています。
新日鐵(小さい頃はそう呼んでいました。)が創業して100年後に私は設計の実務を始めて、さらに、その20年後に、建築の再生を設計する事務所を創業しました。建物が何らかの理由で解体されると、そこにどのような建物があったかは思い出せなくなります。色や形や、しばらくすると用途も忘れてしまいます。どのようなカタチであれ、建物を再利用して活かすことで、建物の記憶が引き継がれ、その積み重ねにより都市は成熟して文化的な街が形成されるのではないかと今は考えています。
建築は時代の要請に応じて建設されます。少子高齢化社会の中でウィズコロナでありながら、どのような建築を生み出していくべきか、また、生み出さざるべきかをよく考えて、今回の講義を通じて考えたことを、実務に活かしていきたいと思います。
小川晋一先生を始めてとして、この度の講義に関わっていただいた皆さまに感謝とお礼を申し上げます。ありがとうございました。




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